大峯奥駈道縦走報告
昭和57年卒 加藤 博一
2025年5月11日掲載
昭和57年卒 加藤 博一
2025年5月11日掲載
令和5年度の会報に登山について寄稿させていただいた際、大峯奥駈道縦走計画について述べたところ、その結果を知りたいという声があったので、昨年春に無事完走できたことを報告させていただく。
<概要>
大峯奥駈道は、「紀伊山地の霊場と参詣道」として登録されている世界文化遺産の道の一つで、標高1200m〜1900mの急峻な山岳からなる大峰山脈の主稜線を通る非常に険しい修験者の修行の道である。奈良県の吉野と和歌山県の熊野本宮大社をつなぐ約100km、累積標高約8000mの登山道だ。
<4 月 27 日( 1 日目 ):近鉄六田駅〜吉野、 6km 、 1 時間 40 分>
午前中、自宅で装備の点検をし、お昼ごろに家を出た。 近鉄吉野線の六 田駅 近くにある 柳の渡し が 大峯奥駈道 の起点である。
1 日目は 、 六田駅 から 吉野までお散歩気分で歩いた。 ただ気温が高く、汗だくになった。
吉野の 旅館 を予約しており、翌日からの過酷な山行を前にゆっくりした。スタミナ豊富な夕食をとり、 お風呂に入っ て、 19 時ごろに就寝した。
<4 月 28 日( 2 日目 ):吉野〜 行者還小屋 、 30km 、 15 時間>
心地よい布団で早く就寝したので 2 時前にバッチリ目が覚め、 2:30 にスタートできた。
登山届はメールで奈良県警に提出済みだが、吉野の駐在所でも紙の登山届を提出しておいた。金峯神社まで暗い舗装路を歩き、少し休憩した。ここから山道 や 舗装路を 通り 四寸岩山の登山口まで来た。ここから四寸岩山まで 300m 登って200m 下って、大天井ヶ岳まで 400m 登る。
四寸岩山への上りの途中で夜が明けた。 晴れの良い天気になりそうだった。
山上ヶ岳 の上りの途中にある 洞辻茶屋 までは、よい ペースで歩くことができ たが、そこ からペースが落ちた。暑いのと水分補給をセーブしていたからだと思う。山上ヶ岳山頂でも少し休憩して、小笹に向かった。小笹では水をがぶ飲みした。 そのおかげで ペースが戻った。大普賢岳への 200m の登りも普通に歩けた。
大普賢岳と七曜岳の間 は 何度も歩いたことがあるところで、鎖場もあるのだが、険しいというより楽しいという印象を持っていた。ただ、今回は険しいと感じた。
18 時前に 行者還 避難小屋に 着いた 。小屋には 4 名の先客がいた。夕食はマジックパスタ。夜は寒くなく、シュラフを毛布のようにして寝た。
<4 月 29 日( 3 日目 行者 還小屋 〜 深仙ノ宿 、 18km 、 10 時間 30 分>
3 時頃に起床し、カレーヌードルを食べた。準備を済ませ、 4 時前に出発。天候が崩れることがわかっていたので、その前に行けるところまで行きたいと考えた。
行者還から弥山までの山道は、何度も歩いているが、非常に気持ちが良い。道迷いの心配もない。それでも暗いうちは慎重に歩いた。聖宝ノ宿跡から弥山山頂まではいつも 1 時間はかかるのだが、今回は 50 分で歩けた。
弥山小屋ではコーラと水 1L を購入させていただいた。残念なのは、弥山神社に立ち寄るのを忘れたこと。先ばかり考えていた。
八経ヶ岳にも余裕で登れた。 山上ヶ岳にも多くの登山客がいたが、弥山と八経ヶ岳への登山者 は それ以上に多かった。八経ヶ岳から楊子ノ宿までは緩やかに 300m 下る。ただトラバース道が崩落しているところが何箇所かあったり、激下りがあったりで、ペースがひどく落ちた。
楊子ノ宿小屋で少し休憩したが、このあたりから小雨がぱらつきだした。ここから釈迦ヶ岳まで 200m の登り返しである。仏生ヶ岳と孔雀岳を越えるまでは緩やかな山道で歩きやすい。と ころがこの後、雨風が強くなり、釈迦ヶ岳への最後の登りの一番厄介なところを風雨の中通過しなければならなかった。
釈迦を超えた後、かくし水まで下り、そこで大量に水を補給し、深仙までトラバース道を進んだ。
深仙小屋 では 濡れた衣類などを干して(といっても乾かないが)、寝床を整えた。 この小屋は非常に小さく、すぐに一杯になった。 入る ことができず 諦めてテントを張る方もいた。夕食にマジックパスタを食べた。夜中は雨風の音が強く、翌日の天候を心配しながら寝た。
<4 月 30 日( 4 日目 深仙ノ宿 〜 行仙宿 、 17km 、 10 時間 30 分>
4 時頃から起き出して準備を進めたが、濡れたものが多く、さっさと動けない。朝食はリゾッタを食べた。天気は曇り。深仙から持経までは 450m も下るので、楽なように思える。しかし、長くてしんどい。ボスとなる大きなピークはないし、危険なところもほとんどないが、小さなピークを何度も何度も超えなければならない。すぐに雨が降り出し面白くない。
持経までの最後のピークである阿須迦利岳を通過すると、後は 200m 下るだけ。持経 で はコーラとコーヒー の無人 有料販売をしていたようだ が 売り切れだった。非常に虚しい気持ちになった。水場で給水し、気を取り直して進んだ。平治に到着する頃には雨も上がっていた。
少し休憩して行仙に向かった。このころから時々晴れ間が見えるようになり、気分は上向いた。しかし、平治から行仙までは 3 時間強の行程で 370m 登って 370m 降りる結構タフな道だ。このあたりから大きな独り言を言いながら歩いていた。行仙岳 が見えた と きは嬉しかった一方、結構遠いのと標高差も 100m 近くあるので疲れも出た。ブラックサンダーに力をもらって、なんとか登りきった。
行仙宿は多くの人で賑わっていた。 深仙小屋の中はお通夜の雰囲気だったが、ここは違った。オアシスだった。 行仙宿 の小屋は普段は無人なのだが、この日は 小屋番さんがいて、パンケーキや豚汁の もてなし が あった。濡れた衣類や靴はストーブで乾かしていただいた。小屋番のおじさん、おばさん、縦走されている皆さんと楽しいお話もできた。勇気をたくさんもらった。よく眠ることもできた。(私はいびきがうるさいので、他の方には迷惑をかけたかもしれないが…)
<5 月 1 日( 5 日目 行仙宿 〜大森山、 22km 、 11 時間>
朝 4 時に起き、出発の準備をした。靴やレインウェアも乾いており、助かった。昨日はきれいな夕日を見れたので、晴れたら良いと思っていたが、そんなことはなかった。出発時点では曇りだったが、すぐに雨になった。この日は夜まで止まなかった。
笠捨山まで標高差300m は急登だったが順調に登ることができた。その後は古屋の辻までは 700m の下り。しかし、地蔵岳という高くはないが長い鎖場などがある険しい山が控えていた。雨だったので慎重に通過した。
その後の古屋の辻までの下りと、玉置山までの 400m の登り返しは良いペースで歩けた。雨で体温 が上がらずよいコンディションを維持できていたからだと思う。新しく買ったレインウェアは高価な分、性能も良い。雨は通さないし汗は逃がしてくれる。ただ、歩くのを止めると一気に体温が下がって歩けなくなりそうだったので、休憩は取らなかった。
玉置山展望台の東屋で初めて休憩をとった。レインウェアの下に 1 枚着込んだ。玉置山神社に到着すると、雨にも関わらずそこそこの参拝者がいた。丁寧にお参りを済ませ、神社の方にお礼を言って水をたくさん頂いた。 携帯の 電波も入 るようになり 夜には雨も止むようなので、雨が止むまで進もうと思った。体の 調子はよいので、最後のボス山である大森山を越えておきたかった。そうすれば、明日は楽勝だと考えていた。標高差 250m の大森山を登 り 、山頂につくと、強い風が吹 き 抜けていた。少し下って風が弱そうなところでツェルトを張ることにした。まだ雨は降っていたが、なんとか設営できた。気温が下がっていたので、暖かく着込んでシュラフに包まって速攻で寝た。夕食は食べなかった。気温はかなり下がっていたと思うが、暖かく眠ることができた。
<5 月 2 日( 6 日目 )):大森山〜熊野本宮大社、 12km 、 7 時間>
3 時過ぎに起床した。最終日、体調も悪くなく、筋肉痛も膝痛もない。朝食はカレーヌードルを食べた。お湯を入れる前にシュラフマットの上で容器を倒し、シュラフマットがカレー粉まみれになった。最終日で良かった。 この日は 、 500m 登って、 1500m 降りる。コースタイム 6 時間。すぐというわけではないが、午前中のゴールを目指し、 4:30 に出発した。
小さなピークをいくつも越えながら、右手に時々熊野川を見ながらもくもくと歩いた。大鳥居が見えたときには、すごく嬉しかった。 熊野川 の 河原に降り立った。川を歩いて渡りたい。靴はすでに濡れ ているので、そのまま入っていった。深くはなかったが、流れの強さは想像以上だった。バランスを取りながら、少しずつ進み、なんとか渡り切ることができた。晴れていたので、靴や靴下を脱ぎ乾かしつつ、日向ぼっこをしながら、歩ききった達成感を一人で味わった。 その後、 本宮大社にお参りに行った。縦走を貫徹できたこと、丁寧にお礼した。
それから タクシー でわたらせ温泉に向かった 。洗濯 を し て 、温泉に入った。久しぶりのお風 呂は本当に気持ちが良かった。その後、 バスと電車を乗り継いで 、午後 10 時頃に帰宅した。
<感想>
挑戦することは好きだが、いつもは念入りに調べたりして、ある程度目処が立たないと実行しない。しかし、今度だけは最後の最後まで自信を持てなかった。いつ体が痛むかわからない、いつ事故にあうかわからない、いろいろな想定ができるが事前にすべてに備えることはできない。そんな中、なんとか達成できたのは幸運だった。
雨が続いて天候は悪かったが、3 泊は小屋に泊まることができた。行仙小屋のおもてなしは想定外で最高だった。出会った人、皆さんとの会話で心が安らいだ。
このレベルの 体力を使う 挑戦は今後の人生ではないと思うが、また体を休 めて、いろいろな山に登ってみたい。